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『推し』。
好きなアイドルやキャラクターのことを差す。
キャラクターはときに、原作で急に退場することがある。
アイドルや俳優など、『推し』が生身の人間である場合、急なお休みや病気、スキャンダル、卒業、脱退、引退、解散など、いつ何が『推し』の身にふりかかるかは誰にもわからない。
それは神のみぞ知る。
こんばんは、「夢と読書 一期一会BOOKS」の萌菜花です。
本日ご紹介する本は『推し、燃ゆ』です。
文字通り『推し』が炎上したところからはじまる衝撃のお話。
『推し』が存在しているひとは、めちゃくちゃ刺さる一冊です。
どんな本?
――推しが燃えた。
ファンを殴ったらしい。
突然推しが炎上した。
それは終わりのはじまり。
推しに全てをささげてきた高校生のあかり。
部屋がぐちゃぐちゃでも、提出物を忘れても、バイトで失敗ばかりしても、推しを理解するために努力し、握手券のために同じCDを何枚も買う。
推しが炎上したことで、推しのファンであるあかりはどうなってしまうのか?
若干21歳の宇佐見りんが描く、苦しくなるほどにリアルで、悲しいほどに好きが溢れ出す、衝撃の第2作。
本と著者について
推し、燃ゆ
著者:宇佐見 りん
定価:1,400円+税
2020年9月30日 初版発行
(河出書房新社)
宇佐見 りん(うさみ りん)
1999年静岡県生まれ、神奈川県育ち。
2019年『かか』で第56回文藝賞、第33回三島由紀夫賞を史上最年少で受賞。
本作で芥川龍之介賞を受賞した。
読んでみてどうだった?
1 『推し』とファンであるあかりとの距離感がとてもリアル
主人公のあかりが推している上野 真幸(うえの まさき)くんは、アイドルグループの人気メンバーです。
その人気は、男女5人で構成されたグループ内の総選挙で1位に選ばれるほどで、本の冒頭――ファンを殴った、と報道されたとき――の衝撃はすさまじかっただろうと思います。
なぜそう思うかというと、実際わたしにも『推し』なるものが複数人存在し、その人たちをとりまく世界では時折、『炎上』と呼ばれる事件が起こるからです。
一度燃え広がってしまえば、そのダメージは計り知れず、傷ついた信頼やイメージを取り戻すには何年もかかるでしょう。
爆発し焼け野が原になれば、一発で引退を余儀なくされる、そんなケースも多々見てきました。
けれど、では、どうしてそうなったのか。
そうなってしまったのか。
真実を知るのは、『推し』本人やその周りのごく一部の人たちしかいません。
ファンはただのファンでしかなく、邪推をしたところでそれは真実でなく、真実を知らないのなら、本人から聞いていないのであれば、それはただの憶測でしかありません。
どの『推し』も、いついなくなるかなんて誰にもわからない。
だからこそ、『推し』は推せるときに推すべきなのです。
その決して近づくことのない『推し』とファンの距離感がとてもリアルで、すごくよかったです。
作中で、親友の成美が、
「推しは命にかかわるからね」
と言っていましたが、確かに、大げさでなく命に関わることもあります。
実際に脱退だの卒業だの解散だの引退だのという、受け入れがたいニュースがいきなり飛び込んでくると、学校や仕事を休んでしまったり、ショックのあまり帰らぬ人となった、という話も聞いたことがあります。
その反面、ライブなどの現場に行くと、「生きてて良かった!」「この日のために生きてた!」「寿命が延びた……!」とこころから思う。
今まで当たり前のように存在していた『推し』が、いなくなるかもしれないという恐怖を、いつだってファンは抱えているのです。
2 不器用に、それでも生きているあかり
主人公のあかりは、何かしらの障がいを抱えています。
本作ではっきりと病名が出たわけではありませんが、2つ診断名が出ているようです。
・なかなか漢字が覚えられない
・部屋が片付かない
・忘れ物が多い
・臨機応変に動くことが難しい
など、生きづらさを抱えていて、それなのに何故か推しである真幸くんのことはしっかりと覚えている。
診断名のひとつは発達障がいのうちのいずれかでしょうか。
以前わたしが読んだ『15歳のコーヒー屋さん』の響くんに少し似ているところがあるなぁ、と思いました。
真幸くんのことが覚えられるのは、赤シートを使って努力して覚えた、というのもありますが、こだわりであるともいえる。
ただ決定的に違うのが、家族が誰一人としてあかりを理解しなかった、理解しようとしなかったこと。
これが読んでいてすごくつらくて、推しまでもしいなくなってしまったら、この子はどうなってしまうのだろう。
そう思わざるをえない情況がこれでもかと続きます。
3 ただひとつ、わたしが言いたいこと
先ほども申し上げた通り、わたしには複数人の『推し』がいます。
皆さん実在している人物です。
好きなキャラクターもたくさんいます。
中には、本編で退場してしまったキャラクターも……。
わたしがこの本の中で唯一、それは違うよ! と思ったことがあります。
あかりは、
推しは人になった。
と思っていましたが、推しはもともと人なんです。
生きているし感情だってあるんです。
生身の身体なんです。
恋だってするし病気だってする。
そして、いつかはいなくなる。
同じ時代を生きている以上、必ず終わりがあるんです。
考えたくはないけれど。
あかりは真幸くんを理解しようと、あらゆる発言を書き記していました。
でも、その言葉が100%本音かどうかは、本人にしかわかりません。
わたしも過去の推しが卒業したことで、ああ、わたしはアイドルとしてのこの子が好きだったんだなぁ、と気づかされたことがありました。
どんなに理解しようとがんばっても、ファンはファンでしかない。
わたしたちは推しの友達でもメンバーでも家族でもなんでもない、ただのファンでしかない。
本編はほぼあかりの話なのですが、ちょいちょい出てくる家族や親友の成美もなかなかにヤベェ人たちなので、ぜひ読んでみてください。
誰にも共感できないかもしれません。
まとめ
ファンの狂気に満ちた世界をリアルに描いた『推し、燃ゆ』。
刺さる人にはぶっ刺さるだろうし、刺さらない人にはなーんにも刺さらないかもしれませんが、そういう人は確かに存在します。きっとね。
わたしもいちファンですから、推しのために泣いたり、笑ったりします。
勢いよく最後まで読んで、ゆっくりと本を閉じたあと、わたしは、あかりにお願いだから生きて、と強く願ったのでした。