【感想】『縁結びカツサンド』冬森 灯(株式会社ポプラ社)――❝その誰かの日々の暮らしの中に、うちのパンがある、そんな風景。❞
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こんにちは。
「夢と読書 一期一会BOOKS」の萌菜花です。
去年の最初に読んだのは、『強運の持ち主』瀬尾まいこ(文春文庫)でした。
今年も最初に読む本は縁起の良い本がいいな、ということで選んだのが今回の本、『縁結びカツサンド』冬森 灯(株式会社ポプラ社)です。
わたしは美味しい料理が出てくる本が大好きなのですが、この本は読んでいると本当にお腹が空いて、途中でご飯やおやつを食べながら読みました。
それもそのはず、この本はポプラ社の「おいしい文学賞」最終候補作品に選ばれたお話、をもとに書かれたお話なのです……!
このお話は、駒込うらら商店街にある老舗「ベーカリー・コテン」の若き三代目が、お客様の出逢いを通じて新しいパンを生み、縁を結び、成長していくお話です。
- 『縁結びカツサンド』のあらすじ
- 『縁結びカツサンド』と冬森 灯さんについて
- 『縁結びカツサンド』の感想
- 幻の応募作『縁結びカツサンド』が読める!配信中のサイトやアプリを紹介
- 『縁結びカツサンド』のまとめ
『縁結びカツサンド』のあらすじ
駒込うらら商店街にある老舗「ベーカリー・コテン」は、亡くなった祖父・音羽 喜八(おとわ きはち)があんぱんからはじめた小ぢんまりしたパン屋さんである。
そんな「コテン」の若き三代目・音羽 和久(おとわ かずひさ)は、レシピもないなか、店と味を受け継ぐために奮闘していた。
「コテン」の名前の由来もわからず、日々悩みながらパンを作る中、和久は様々なお客さんと出逢い、そのやりとりを元に新しいパンを作っていく。
まごころドーナツ。
楽描きカレーパン。
花咲くコロネ。
そして、――縁結びカツサンド。
和久の作るやさしいパンは、少しずつひととの縁をつないでいくようになるが――。
これは、レトロでちいさなパン屋さんで起こる、焼き立てのパンのようなぬくもりの物語。
『縁結びカツサンド』と冬森 灯さんについて
著者:冬森 灯(ふゆもり とも)
定価:1,600円+税
2020年7月6日 第1刷発行
(株式会社ポプラ社)
冬森 灯(ふゆもり とも)
第1回おいしい文学賞(ポプラ社)にて応募作『縁結びカツサンド』が最終候補となる。
惜しくも受賞を逃したものの、編集部から絶賛の声が寄せられ、応募作をもとに書き上げた本作でデビューを果たす。
その後も、『うしろむき夕食店』『すきだらけのビストロ』など、美味しい小説を執筆している。
『縁結びカツサンド』の感想
1 焼き立ての美味しそうなパンが次々登場!読めば読むほどお腹が空きます……!
冒頭でもお話したとおり、この本は読んでてめちゃくちゃお腹が空くので、読む時間に注意が必要です。
わたしは午前・昼下がりに読むことが多かったのですが、次々に出てくるパンがそれはもう~~美味しそうで、読んでいて本当にお腹が空いて、ご飯やおやつ休憩をはさみながら読みました。
いやいや、ただ昼前後に読んだからじゃないの? と思うかもしれません。
そこで、わたしが読んで「もうご飯食べる!」と即決した一文を挙げたいと思います。
「パンそのものの味を楽しむなら、トーストです。切り方で味が変わるんですよ」
カリカリした食感が好きなら薄めのスライス。サクサクふわふわの食感のコントラストを楽しみたいなら厚めに切るのがいいという。表面に十字や賽の目に切り目を入れてから焼くのでも、バターを塗るタイミングでも味が変わるのだと、三代目は身振り手振りを加えて、楽しそうに説明してくれた。
「俺は、焼き上がり直前に、バターの塊を載せるのが好きなんです。角が丸くなって、金色の液体が溶け出したら頃合いです。溶けたバターのしみ込んだところ、塊のバターがクリーミーなところ、パンだけのところ、一枚でいろいろ楽しめるので」
これは、最初こそ「一人暮らしだから一斤も食べられない」と言っていた「コテン」の常連客・段田 理央(だんだ りお)が、だんだん「コテン」の三代目・和久と顔なじみになり、「食パンはどういうふうに食べたらおいしいか?」という質問をし、返ってきた答えです。
わたしの家の近くにはパン屋さんがなく、スーパーのパンを買うことが多いですが、どちらかといえばジャムなど甘いトッピングが好きで、バターのみのシンプルなトーストはあまり食べていませんでした。
また、スーパーにある食パンは最初から切れているものがほとんどなので、厚みを変えたり、切り目を入れて違いを楽しんだこともありませんでした……!
こうした発見ができるのが読書の良いところで、たまにはパン屋さんで食パンを買って毎朝楽しみたい……! と思いましたし、ちょっと人生損してるかも、とさえ思いました。
ただ、その時食パンは家になかったので、違うご飯を食べましたが……。
このようにお話の中では、本当にパン屋さんに行ったときみたいに、次々と焼き立ての美味しそう~なパンが出てきてたまらなくなります。
「コテン」は商店街の中にある、6畳ほどのレトロなお店で、パンが並んでいる様子や、お店の中に充満するパンの香りさえ想像できて、ものすごくパン屋さんのできたてのパンが恋しくなりました。
そんな美味しそうな(いや絶対美味しい)パンを作っているのが、三代目の和久と、和久の父・音羽 康平(おとわ こうへい)さんです。
ふたりは、亡き祖父・喜八さんのお店を守るべく、日々パンを焼いています。
「コテン」のパンは老舗らしく、あんぱん、クリームパン、チョココロネなど、どこか懐かしい顔ぶれで、サンドイッチは置いていません。
いまどきサンドイッチがないパン屋さんがあるの? と、みなさんは驚くかもしれません。
それは亡き祖父の「パン屋はパンを売る。中身をとっかえひっかえして同じパンは出せない。そういうのは家庭で作るのがいい。そうやって家庭の味ができていくんだから」という考えによるものでした。
そう言われれば納得できなくもないですが、忙しいひとが増えた昨今、あればいいのになぁ、とわたしは「コテン」に行けるわけでもないのにそう思いながら、この本を読み進めていきました。
2 お客さんとの縁が新しいパンを生み、そのパンが新しい縁を生む
もともと別の仕事をしていた和久は、「コテン」でパンを焼くようになって一か月が経ち、自分の作ったパンの売れ行きが良くないことに悩んでました。
同じように並べていても、なぜかお客さんは父の作ったパンを選んでしまうのです。
そこで、常連の理央にその悩みを打ち明け、少しずつ打ち解けていったある日、和久は理央から紅白の糸が結びつけられた五円玉をもらいます。
「縁結びって言っても、男女の縁だけじゃないらしいんです。人間関係とかお仕事とか、ひとをとりまく一切合切と幸せを結び付けてくれるそうですよ。だから、三代目とパンの、それにお店とお客さんのご縁が結ばれるように」
そう言って、理央は和久に「お福分け」をしました。
理央は婚約者との関係に悩んでいて、
「どうしようもない時ほど、目に見えない力を借りなくちゃね」
という面倒見の良い友人・恵利佳(えりか)と神社巡りに行き、福を分ける気持ちで(実は自分のために)、この「五円」を渡したのでした。
そのことがきっかけとなり、「まごころドーナツ」が誕生します。
バームクーヘンが縁起物ということは知っていたのですが、たしかに、穴の開いた丸い――つまり「円」のドーナツも縁起物なのかも! と思い、今度はドーナツが食べたくなりました。
本当に罪な本です……!
そうやって、お客さんとの会話の中でヒントを得て、新たなパンを生み出すことで、和久は成長していきます。
3 亡くなった創業者の祖父しかわからない店名「コテン」の意味とは?
「ベーカリー・コテン」。
創業者の祖父は職人肌で、見て盗めというタイプのひとでした。
そのため、「コテン」の由来は誰も耳にしたことがなく、本人亡き後も謎のまま。
「コテン」について、様々な考察がなされます。
受験を控えた小学生・花ちゃんは、
「コテンって、個展ってことでしょ? パンの展覧会って意味」
と考え、就活をしている大学生・守田 大和(もりた やまと)くんは、
「個人商店の、個店、てことじゃないの?」
と考え、占い師の魔縫(まほ)さんは、
「『コテン』はすなわち『古典』のことだろ。古きを知り、その知恵を現代に活かす」
と考えていました。
喜八さんは江戸っ子口調のまっすぐなひとで、「パン生地と女子どもには誠実に」という信条のもとパンを作っていました。
時代は変わりゆくもので、いつしか孫の代になり、サンドイッチを買うことも当たり前の時代になりました。
古き良き老舗――悪く言えば、新しいもののないお店。
それは、時代の変化についていけていない、ともとれます。
けれど、変わらないものも、きっとあるはずです。
和久は、「コテン」に隠された意味を知ることができるのか?
それは、あなたの目で、ぜひ確かめてください。
幻の応募作『縁結びカツサンド』が読める!配信中のサイトやアプリを紹介
この『縁結びカツサンド』はポプラ社の第1回おいしい文学賞の応募作をもとに新たに書き上げられたお話です。
実は、この幻の応募作、読むことができるのです……!
上記はAmazon(Kindle版)や楽天市場などになりますが、それ以外にも各電子書籍サイト・アプリで配信中です。
一部をまとめてみました。
リンク先は商品ページです。
わたしが普段から使っているアプリでも配信されていたので、さっそく買って読んでみたいと思います。
短編なのでたった220円で買えちゃいます。
こちらのお話は❝その後❞の三代目を描いたお話だそうです。
いまから読むのがすごく楽しみです!
気になった方はぜひこちらもいっしょに読んでみてください。
『縁結びカツサンド』のまとめ
この本は4つのお話が一つになっていて、それぞれ主となるお客さんが違います。
でも、どのお客さんも常連さんなので、後に常連さん同士の交流があるのも読んでいてうれしいポイントでした。
焼き立てのパンのように、ほっこりあたたかい気持ちになれる一冊です。
気になった方はぜひ読んでみてください。
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