箱には秘密が詰まっている――大正箱娘 見習い記者と謎解き姫(紅玉 いづき)
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別にフェミニストでもないけど、女性というだけで損だよなあ、と思うことがこの歳になると多くなる。
でも、いまは令和だ。
昔はもっともっと、女性は生きにくかったはず。
こんばんは、「夢と読書 一期一会BOOKS」の萌菜花です。
本日ご紹介する本は『大正箱娘 見習い記者と謎解き姫』です。
著者は『ミミズクと夜の王』で鮮烈なデビューをした紅玉いづき先生。わたしの大好きな作家さんです。
『ミミズクと夜の王』からはじまる『人喰い三部作』と、『ガーデン・ロスト』までは読んだ記憶があるのですが、紅玉いづきさんの本を読むのはかなり久しぶり。
色鮮やかな表紙のイラストが目を引く『大正箱娘』。
ノスタルジーでどこか怪しげなこの時代を舞台に、さまざまな「箱」にまつわる謎を解き明かすお話です。
どんな本?
英田 紺(あいだ こん)は新聞記者をしている。
隆盛を極める帝京新聞の、三面記事の担当で、書くのは怪しい記事ばかり。
ある日、そんな新米記者の紺のもとに、一通の手紙が届く。
それは「蔵で見つかった呪いの箱を始末してほしい」というもので、紺は実際にその箱を見に行くも、持ち帰ることができなかった。
そこで、上司の小布施が紹介してくれたのが、――『箱娘』。
”箱を自在に開閉できる”という箱娘に会ったことで、紺は次々と『箱』にまつわる謎と関わることになる……。
本と著者について
大正箱娘 見習い記者と謎解き姫
定価:690円+税
2016年3月16日 第1刷発行
(講談社タイガ)
紅玉 いづき(こうぎょく いづき)
石川県出身。
金沢大学文芸部卒業。
『ミミズクと夜の王』で第13回電撃小説大賞の大賞を受賞しデビューした。
著作に『ガーデン・ロスト』、「サエズリ図書館のワルツさん」シリーズ、「ようこそ、古城ホテルへ」シリーズなどがあり、ライトノベルにとどまらず、児童書、一般文芸でも活躍している。
内容はどうだった?
1 大正時代の女性にとっての「結婚」とは
いまでこそ自由恋愛が当たり前の時代ですが、大正時代はまだまだ自由が利かず、親に定められた結婚をする人たちが多い時代でした。
紺に依頼をしたスミさん、「今際女優」と呼ばれたエチカさん、自殺した佳枝さん、十三で嫁いだ妹。
それぞれが昏い事情を抱え、「大正」という時代を生きています。
男性が読むとどう思うのか、女性であるわたしには想像しがたいですが、「結婚」も「出産」も義務のようなものなんだよなぁ、と、そういう風に書かれているとはいえ、少しだけ嫌な気分になりました。
相手を自分でない誰かが決めて、知らないところへ嫁いで、お家のために生きなくてはならなくて。
その嫁ぎ先次第ではあるけれども、幸せより不幸のほうが多かったのではないかとさえ、考えてしまいました。
2 秘密は「箱」の中にある
「箱」。今は段ボールとか、紙とかが主流ですが、この時代はもちろん木。あとは工芸細工とかにあるような、ずごくきれいな箱。なんだかそういうイメージがあります。
ただ、このお話では、物理的に存在している「箱」だけでなくて、秘密そのものも「箱」と読んでいます。
どんな箱でも開閉できるのが、『箱娘』。
とても不思議な存在です。
不思議といえばどの登場人物も謎というか、秘密を抱えています。
秘密、というのは、人には言えない、ということ。
言える人がいない、ともとれますよね。
大っぴらにするとヤバイから、自分の中に秘めておくわけです。
大正という時代は、今よりももっと閉鎖的で、もっと言いたいことが言えなくて、悲しい思いをする人が多かったのかもしれません。
でも、中身がわからない開けられない箱があるからと言って、すべてを開ける必要はないのです。
ただ、紺は新聞記者。
どちらかといえば、「箱」を開かなくてはならない存在。
紺はとても正義感が強くて、誰かのために動くことができて、自分の手で「真実」を言葉にできます。
知った上で書かない、とか、知らないけど書く、とか。新聞は必ず読者がいるもの。自分が書いた記事を読んだ人に少なからず影響が出る、責任感の問われるお仕事だと思います。
たとえば世論を動かす、とか。
紺が記事を書くことで、箱を持たなければならない女性たちが、少しでも行きやすくなる世の中になればいいなと思いました。
3 自ら外に出た紺と、箱から出られないうらら
紺と『箱娘』――うららは、紺が何度もうららの元を訪れることで、「友達」と呼べるまでの関係になります。
ふたりとも謎が多いけれど、対照的な関係なのかな、とも思います。
紺はうららに助けを求める。
うららは紺に助けを求めない。
紺は自分から家を出て、うららは家から出られない。
「わたしは、どこにも行かない」
そう、うららは言っていた。
「……僕は、行きます」
と、紺はうららに言う。
それでも、うららは紺を助ける。
ただ、うららの心情は書かれていないから、わからない。
いつもうららの身の回りの世話をしている叉々でさえも、わからない。
そんな不思議な関係ですが、拒まれていはいないので、少なくともうららは紺を嫌いなわけではないのでしょう。
このお話には続巻がありますが、そこでもう少し距離が縮まるのかな?
また読む機会があれば読みたいと思います。
まとめ
紅玉いづき先生の美しい描写が楽しめる、『大正箱娘』。
時代的に和の言葉が満載で、知識のないわたしは漢字の読みや言葉の意味を調べながら読み進めました。
紅玉先生独特の、柔らかくも美しい描写が大好きなのですが、色の描写がすごくきれいなんですよね。
たとえば、
水気の少ない絵の具を乱雑に混ぜたような空だった。焼け落ちそうな陽は建物の影を長くしながら、急な坂道を歩く紺の眼球を灼いた。
とか。
お話を楽しむのももちろんですが、そんな丁寧な描写にもぜひご注目ください。
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