夢と読書 一期一会BOOKS

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【感想】『冥土の土産屋『まほろば堂』 倉敷美観地区へようこそ』光明寺 祭人(ことのは文庫)

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 こんにちは。

 「夢と読書 一期一会BOOKS」の萌菜花です。

 

 今回わたしが読んだ本は、『冥土の土産屋『まほろば堂』 倉敷美観地区へようこそ』光明寺 祭人(ことのは文庫)です。

 

 この本は、その名の通り、上の画像の通り、倉敷美観地区が舞台になっています。著者の光明寺 祭人先生は倉敷市在住で、岡山駅倉敷駅周辺のリアルな描写に、県内在住のわたしは思わずテンションが上がってしまいました。

 「8月らしい本を読もう!」企画第4弾にとしてこの本を読んだのは、ちょうどお盆に親戚が来て美観地区に行っていたからです。

 春の美観地区もいいですが、夏の美観地区はパフェやアイスを売っているお店がたくさんあるので、デザートが好きな人にもおすすめです。

 もちろん、電柱のないノスタルジックな町並みもフォトジェニックで綺麗です。それでいて新しいお店もどんどんできているので、ぜひ足を運んでみてください。

 

 と、そんな魅力いっぱいの倉敷美観地区を舞台にした、ちょっと不思議で切ないファンタジーなこのお話をご紹介します。

 

 

 

 

 

『冥土の土産屋『まほろば堂』 倉敷美観地区へようこそ』のあらすじ

 

 父は亡くなり、母とは仲が良くなく、友達や恋人はおらず、挙句の果てに失業。おまけに借金もある。そんな人生の崖っぷちに立つ逢󠄀沢 望美(あいさわ のぞみ)は、電車で寝過ごしてしまい、倉敷駅に着いてしまう。

 なんとなく歩いていた先にあったのは、夜の倉敷美観地区。そこには『まほろば堂』という、一軒のお土産屋さんがあった。

 店内にいたのは、店主の蒼月 真幌(あおつき まほろ)と一匹の黒猫。優しいおもてなしと親身に話を聞いてくれる真幌に癒された望美は、お店を手伝うことになる。

 真幌と一緒にさまざまなお客様を見送るうちに、望美は真幌のことをもっと知りたいと思うようになり――。

 レトロな町並みが懐かしい、倉敷美観地区を舞台にした、家族と愛の物語。

 

『冥土の土産屋『まほろば堂』 倉敷美観地区へようこそ』と光明寺祭人先生について

 

 

 

 定価:690円+税

 2020年9月26日 初版発行

 (株式会社マイクロマガジン社/ことのは文庫)

 

 光明寺 祭人(こうみょうじ さいと)

 

 岡山県倉敷市在住。

 2017年『わたしはさくら。~捏造恋愛バラエティ、収録中~』(マイナビ出版文庫)にてデビュー。

 本作は2作目の著書である。

 

『冥土の土産屋『まほろば堂』 倉敷美観地区へようこそ』の感想

1 『まほろば堂』はただのお土産屋さんじゃありません~夜営業もあります~

 

 わたしはあえてあらすじで「冥土の土産屋」について触れなかったのですが、みなさまはお気づきになられたでしょうか。

 そう、このお店はお昼は普通のお土産屋さん、夜は「冥土の」お土産屋さんをしています

 

 「冥土の土産」という言葉を、あなたは聞いたことがあるでしょうか。

 死ぬときに「あーよかった、これで安心して死ぬことができるぞ」と思える出来事のことで、文字通り「冥土(死後の世界)へのお土産(持っていくもの)」という意味があります。

 この「冥土の土産」を観光地・倉敷美観地区のお土産屋さんで売っているのです。もうこの設定だけで面白いですよね!

 

 そんな『夜の』お客様は、冥土の土産に何を望むのかがこのお話のいちばん重要なところで、その願いは人それぞれです。遺してしまう家族のことを想ったり、恋人のことを想ったり、案外みんな誰かのためのお願い事をしています。

 自分の立場に置き換えて考えると、急に「あなたはもうすぐ死ぬので冥土の土産に何が欲しいか考えてください」と言われても、何も思いつきませんよね。

 

 たとえばいっぱいお金がもらえたとしても、自分は死ぬわけだし。

 たとえばお仕事で成功したとしても、自分は死ぬわけだし。

 たとえばどこかに移住したとしても、自分は死ぬわけだし。

 たとえば恋人と結婚して幸せになっても、たくさんの人に慕われるようになっても、美味しいものを食べることができても、自分は死ぬわけで。

 

 今の自分がもし、もうすぐ死んでしまうとしたら――そう想像しながら読んでみるのも良いかもしれません。

 

2 岡山の魅力たっぷり!地元民も思わずにやける名産品や風景たち

 

 これは地元倉敷在住の光明寺先生でないと書けないな、と思ったのが、数々のローカルなお土産や食べ物たち。同じく岡山県内在住のわたしからしたら、とってもテンションの上がるものばかりでした。

 

 倉敷ガラスに備前焼の皿やコーヒーカップジーンズ、倉敷帆布などの工芸品。桃太郎トマトと千屋牛のサンドウィッチ、黄ニラの酢漬など、特産品を使った料理。マスカット・オブ・アレキサンドリアを使った陸乃宝珠にきびだんご、むらすゞめなどの銘菓。『燦然』『マスカットワイン』などのお酒。

 そしてわたしが一番作者さんに共感したのが、大手まんぢゅうと藤戸まんぢゅうです。 見た目がとても似ているこのふたつは、皮の厚さとか賞味期限が違って、そこを書いてくれているのはすごく嬉しかったです。ちなみにわたしは藤戸派です。

 

 美観地区にあるお店ならではの外観や内装も素敵で、店主の真幌さんが備前焼のお皿に乗ったサンドウィッチを望美に差し出したシーン(冒頭わずか23頁目)で、わたしはこころを鷲掴みにされました。藍染暖簾がひらめき、古時計がぼおんぼおんと鳴る昔ながらの店内で、茶褐色の渋い備前焼の平皿に乗ったサンドウィッチとかおしゃれすぎる! わたしも真似したい! 備前焼のお皿持っとらんけど。一回陶芸体験した時に作ったお皿しかないんじゃけど。あれどこいったんじゃろう。

 

 ナチュラルに岡山弁が出てしまったところで、もう一つ。本当に先生は倉敷に住んでらっしゃるんだなーと感じるリアルな町の描写がとても良くて、

 

 美術館前の今橋を渡り、今度は裏通りへと。桃太郎のからくり博物館などに立ち寄り、今度は白壁通りを左折。しばらくすると、目の前に蔦の絡まる赤煉瓦の建物が現れた。

 倉敷アイビースクエア。

 

 天満屋倉敷店前の歩道橋を渡り、倉敷商店街へと足を進める。

 きょろきょろと辺りを見回すと、昔ながらの商店や居酒屋が立ち並ぶ。

 

「今朝、倉敷駅前のフラワーショップや雑貨屋さんに寄って買ってきたんです」

 

 などなど、現実の世界をそのまま文章にしたような感じで、読んでいるとばっちり脳裏にそのままの風景が浮かんできます。望美のビジュアルは表紙にありますが、この子が倉敷駅前や美観地区を歩いている様子が鮮やかに想像できました。

 

 この本を読んで倉敷美観地区がいいなぁ魅力的だなぁと思った方は、ぜひ本を読むだけで終わらず実際に倉敷に来て本当の景色を見てみてほしいです

 そうすると、もしかしたらどこかに……『まほろば堂』があるかもしれません。もしかしたら、ね。

 

3 不幸の詰め合わせのような人生の望美は「まほろば」を見つけることはできるのか

 

 父は亡くなり、母とは仲が良くなく、友達や恋人はおらず、挙句の果てに失業。おまけに借金もある。そんな人生の崖っぷちというかこの世の不幸をこれでもかと詰め合わせたような人生を生きている主人公、逢󠄀沢 望美(あいさわ のぞみ)。

 そんな望美には、さらなる不幸が待ち受けています。まだあるの……? と思うかもしれませんが、さすがにここから先は教えられません。

 

 ですが、そんな望美はまほろば堂』に出会ったことで、運命が変わっていきます

 

 亡くなった父は、生前望美に一冊の絵本を読んでいました。

 その中に出てくるのは「まほろば」というしあわせでうつくしいくに。どん底にいる望美はその言葉を思い出し、「まほろば」――自分の居場所を探していました。

 

 家にいてもどこにいても独りぼっちの望美に、まほろば堂の店主・真幌さんは、地元産の美味しい食べ物や飲み物を振る舞い、望美の話を聴き、さらには望美を雇い入れ、親身に寄り添います。

 望美がひとりぼっちだからとはいえ、なぜただのいちお客さんにそんなことをするの? と、勘の鋭い方は思うかもしれません。――この真幌さんの行動には、とある深い理由があります。

 

 ともあれ、働く場所を見つけ、話し相手もでき、居場所が出来たかに思われますが、肝心の母とは仲が良くないまま。

 皆さん思い出してください、これは「家族と愛」の物語です。

 望美は、夜のお客様の様々な冥土の土産を知るたびに、亡き父とまだ生きている母のことを思い出し、葛藤します。

 同時に、優しく寄り添ってくれるなんだか訳ありな真幌さんに惹かれるようになり、真幌さんのことをもっと知りたいと思うようになります。

 

 人生のどん底の辛いときに優しくされたら、しかも優しくしてるのが高身長で物腰柔らかで着流しが素敵なイケメンだったら、そら好きになるよねとわたしも大きく頷いてしまいます。

 ですが、それだけではなくて、この「知りたい」と思うようになった、というのが大事なのだとわたしは思います。

 

 だって、家族以外のいわば「他人」に、独りぼっちだった望美が興味を抱いた、ということでしょう?

 それはきっと、生きる希望につながるはず。

 

 望美は、母と和解することができるのか? 真幌さんとの関係は?

 望美自身の「まほろば」を見つけることができるのか?

 それはあなたの目でこの本を読んで結末を知ってください。

 

『冥土の土産屋『まほろば堂』 倉敷美観地区へようこそ』の続編はあるの?

 

 読み終わって本を閉じると、「えっ続編は⁉」と思うかもしれません。わたしは思いました。いやこれからじゃん! なんでここで終わったの⁉ と続きを欲してしまいました。ちなみに、今現在続巻は出ていません。

 

 でも大丈夫、続き、読めます

 

 実はこの本、元は小説投稿サイト「小説家になろう」(

https://syosetu.com/)に投稿されていたお話に加筆・修正して文庫化されたもので、もとのお話もばっちりこの「なろう」に残されています。

 そして、そこでこの『まほろば堂』の続編も読むことができます……!

 

 続編はこちら⇩

 冥土の土産屋『まほろば堂』2 ~藍染着流し店主の謎解きおもてなし

 

 加筆・修正がされているということは、「なろう」版は文庫版とはまた違う要素があるということ。

 

 全部は読めていないのですが、書籍化に伴って大きく変わった設定のひとつに、『人類滅亡パラレルワールド設定カット』というのがあって、その世界線も読んでみたかったなぁと思ったのでした。世界観壮大すぎて気になりすぎるパワーワードですよね……!

 

 文庫版となろう版を読み比べてみるのも面白いと思うので、気になる方はこちらもぜひ読んでみてください。

 

『冥土の土産屋『まほろば堂』 倉敷美観地区へようこそ』のまとめ

 

 昔ながらの情緒あぶれる町並みが美しい、倉敷美観地区を舞台にしたお話『冥土の土産屋『まほろば堂』 倉敷美観地区へようこそ』。

 

 美観地区周辺やグルメなどの魅力によって「冥土の土産」という重い設定が緩和され、読みやすくなっていると思います。

 また、様々な境遇のお客様と接する望美の視点で読むことによって、もし自分の寿命が残り僅かだったらどうしよう、と考えたり、なにより望美のしあわせを望まずにいられません。

 望美がしあわせになれるかどうか、気になった方はぜひ読んでみてください。

 

 

 こちらは現在、わたしの小さなフリマのお店「夢と読書(ラクマで古本屋モドキ)」にて発売中です。

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