夢と読書 一期一会BOOKS

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【感想】食堂かたつむり(小川 糸)【命と食はつながっている】

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 こんにちは。
 「夢と読書 一期一会BOOKS」の萌菜花です。

 今回わたしが読んだ本は小川 糸さんの食堂かたつむりです。

 このお話は2010年の1月に映画化され、2011年にイタリアの文学賞であるバンカレッラ賞の料理部門賞を受賞しました。

 タイトルの通り食堂のお話しなのですが、元からあるお店ではなくて、一からお店を作るお話しです。

 わたしは以前、小川 糸さんの『海へ、山へ、森へ、町へ』を読んだことがあるのですが、そのときも「食事は命をいただくことなんだな」と強く感じました。

 え、そんなの当たり前じゃん、と思うかもしれませんが、当たり前のことこそ私たちは忘れてしまうものです。

 今回の『食堂かたつむり』も、命をいただくことの尊さを教えてくれるお話しでした。

 

 

 

 

 

食堂かたつむり』のあらすじ

 

 トルコ料理屋で働く倫子は、ある日同棲していたインド人の恋人に、お金も家財道具もすべてを奪われて何もかもを失くしてしまう。

 そのショックから同棲した部屋を離れ、ひとり帰郷することに。

 実家に住んでいるのは、スナック・アムールを営業しているおかんと、一匹の豚だった。

 「命と食」という切っても切れないテーマで描く、小川 糸の小説家デビュー作。

 

本と著者について

 

食堂かたつむり

 定価:1,300円+税
 2008年1月25日 第1刷発行
 2008年4月20日 第14刷発行
 (株式会社ポプラ社


 小川 糸(おがわ いと)

 1973年生まれ。
 作詞家・春嵐として音楽作成チーム「Fairlife」に参加。
 著書に絵本『ちょうちょ』がある。
 小説家としては本作でデビューを掴む。
 その後『王様のブランチ』の第7回輝く!ブランチBOOK対象・新人賞を受賞し、2010念い映画化。2011年にはイタリアの文学賞であるパンカレッラ賞を受賞。売上部数82万部を超えるベストセラーとなる。

 

食堂かたつむり』の感想

 

1 物語はすべてを失うことがはじまる

 

 わたしは『旅屋おかえり』や『森崎書店の日々』のような、どん底から新しいことをはじめていくお話を読むのが好きです。
 なぜかというと今の自分に近い状況だから。
 悲しみに呆然としていた主人公が、少しずつ前を向いて歩き出すその姿に、とても励まされるのです。

 今回読んだ『食堂かたつむり』も、冒頭からいきなり同棲していたインド人の恋人に、家財道具も食材もすべて奪われてもぬけの殻になるところからはじまります。
 それどころか、「恋人と共同でお店を開く」という夢のために貯めていた現金すらも奪われ、残ったのは亡き祖母から受け継いだぬか床だけ。

 著者の小川 糸さんは、デビューするまで10年間、応募を続けるものの目が出ず、「もうこれでだめだったらあきらめよう」という切実な思いで書いたのが、この『食堂かたつむり』だったそうです。

 もうだめだ、と思ったときの一歩は、とても力強いものだとわたしは思います。
 
 最後だからと好きな料理を題材に『食堂かたつむり』を執筆した小川 糸先生。
 なにもかもを失った状態で、長年の夢だった自分のお店ーー『食堂かたつむり』を開店した倫子。

 ふたりは、「料理」でつながっています。

 

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2 「料理」とは、季節の食材、命を余すことなく大事に扱い、美味しくすること

 

 わたしは料理を題材にした小説が好きで、たびたび読んでいるのですが、以前読んだ小川 糸さんの『あつあつを召し上がれ』は、誰かと一緒に美味しさを共有することがテーマだったように思います。

 しかし、今回の『食堂かたつむり』は、「命と食」がテーマになっています。

 食べなければ、命はつながからない。
 命が失われなければ、食べることができない。

 同じ「料理」を題材にした小説でも、まったく違います。

 作中では、鶏などの「肉」を扱うシーンが出てきます。
 いつも、わたしたちが何気なく食べている料理や、スーパーに並んだ薄く切られたお肉は、ひとつの命が失われて、わたしたちの栄養となるために解体されたものです。

 そのことに対して倫子は、

 この料理を作るために、一羽の生きていた鶏が犠牲になったのだ。
 私は命をくれた比内鶏のためにも、そしてお妾さんのためにも、自分にできる最大限のことをするのが義務だと思った。  

 と真摯に向き合います。

 ああ、美味しそうだな、だけで終わらないのがこの本の魅力だと思います。

 丁寧に作るからこそ、その料理ってそんなに手間暇がかかっているのか、ときっと驚くはず。
 たとえばバルサミコ酢。できるまでに12年もかかるなんて、わたしは知りませんでした。

 この本を読んだあとに夜ご飯を作って食べたのですが、生産者さんや命をくれたお肉を思い、いつもの食事はなんだかいつもとは違う尊いものになりました。

 

3 祖母と母と娘。鏡のような関係

 

 倫子は「倫」は不倫の倫。おかんが妻子を持つ男性と不倫をした末に生まれた子どもである、と小さい頃から言われていた。

 おかんはスナックを営んでおり、長い間愛人がいる。

 祖母は食材や調味料を全部手作りする人で、倫子に料理の魅力を教えて教えてくれた。

 子どもは、よくも悪くも親を見て育ちます。
 それをよく表しているのが、

 私は思うのだけれど、女系家族の気質というのは、必ず隔世遺伝するのではないだろうか? 

 という倫子の考えでした。
 わたしもなんとなく、思い当たる節があったりなかったりするので、そうかもしれないと頷きながら読んだのですが、この3人の関係性もこのお話しの大事な要素となります。特におかんと倫子。

 この本を読むと、おかんに対する感情が読んでいる途中と読み終わった後では変わってくると思うので、ぜひ2回目に読むときはおかんの視点を想像しながら読んでみてください

 距離が近いからこそきつく当たってしまったり、うまく本音が言えなかったりしますよね。

 家族のかたちは家ごとに違うと思いますが、なんとなく、ごはんを和やかに囲んで一緒に食べている家族は円満な家庭なのかなという気がします。
 
 逆に食事中に会話がなかったり、別々にごはんを食べているところは、関係もあまり良くないところが多いように感じます。

 このお話は、「料理」がいろいろな人をつなぎます。それは料理人とお客様、料理人と生産者だけではなく、祖母と母と孫さえも。
 
 家族でいえば、わたしが印象に残ったのは、お子様ランチを食べに来た家族の話。家族みんなでお子様ランチを食べるのです。不思議な注文ですよね。

 なぜそんな注文をしたのかは、そのお客様が帰るときにわかります。
 話の中にさらっとしか出てこなかったですが、おじいちゃんのためにそこまでできるのは、きっと人徳なのだろうなと思いました。

 覚悟を持って書き上げたお話しだからこそ、家族のかたちや命の重さ、食べていくことの大切さなど、伝えたいことがたくさんあったのだろうなと思います。
 たくさんの想いが詰まっているからこそ、多くの人に読まれる作品になったのでしょう。

 

まとめ

 

 最初に載せている豚の写真が気になっている人も多いのではないでしょうか。

 この記事では、あらすじでしか豚――エルメスの存在に触れていません。

 このエルメスについては何もネタバレしたくないので、どう関わってくるのかが知りたい人は、ぜひ読んでください

 また、このお話は映画化され、DVDにもなっています。よろしけば、こちらも併せてご覧ください。

 

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