夢と読書 一期一会BOOKS

日々読んだ本をご紹介。「夢と読書(ラクマで古本屋モドキ)」にて販売中です。

その人の手料理は今しか食べることができないから――彼女のこんだて帖(角田 光代)

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 あなたは、ふと、誰かの手料理が恋しくなることはありませんか?

 わたしは母の作るお雑煮を毎年楽しみにしています。

 母は海に面した地域の出身で、母が作るお雑煮には、かまぼことほうれん草とにんじん、大根、それから牡蠣、もちろんおもちが入っています。

 正直牡蠣は苦手なのだけど、お雑煮には牡蠣が入ってないと違う、うちのお雑煮じゃないとさえ思ってしまいます。

 母も歳をとってきたいま、お雑煮の作り方だけは、ちゃんと聞いておきたい。


 こんにちは、「夢と読書 一期一会BOOKS」の萌菜花です。

 本日ご紹介する本は『彼女のこんだて帖』です。

 角田光代先生といえば、かなり前に小豆島で買った『八日目の蝉』を読んだことがあり、そういうシリアスなお話を書かれるイメージがあったので、こういうテイストのお話も書ける作家さんなんだ! と、個人的に驚いた一冊です。

 また、小泉今日子さんの本のなかで、角田先生のお話が出ていて、作家さん同士で集まる機会があるのだなー、と思っていた程度の認識です。
たしか、お食事会だったかな?

 このお話はリレー形式になっていて、話の中でちょこっと出てきた人物が、次の主人公になっています。

 そんな、とても面白い仕組みのお話でした。

 

 

 

 

 

 

どんな本?

 

 肉だ、肉しかない。  

 そう、立花 協子は思った。
 それは4年付き合った彼と別れてからはじめての週末を迎えるからで、祝福してやろうと思った。

 そうして彼女は、自分のためにラム肉を調理する

 別れた彼のことを思い出しながら。

 このお話は1話ごとに主人公が変わり主人公が変われば作る料理も変わる作る動機も変わる

 料理を作り、食べることで、時には別れそうになった関係を繋ぎ止め大切なことを思い出し旅行気分を味わい元気を取り戻す

 つらくても、悲しくても、お金がなくても、食べて、生きていく。

 角田光代が描く、人を繋ぐ料理のお話。

 

本と著者について

 

彼女のこんだて帖

 定価:524円+税
 2011年9月15日 第1刷発行
 (講談社文庫)


 角田 光代(かくた みつよ)

 1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。
 1990年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞し、デビューとなる。
 1996年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、1997年『ぼくはきみのおにいさん」で坪田譲治文学賞、2003年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、2005年『対岸の彼女』で直木賞、2007年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、2012年『紙の月』で柴田鎌三郎賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞を受賞、そのほか、数々の作品で賞を受賞している。

 

内容はどうだった?

 

1 角田先生らしい「料理を作ること」に特化した小説

 

 食事は生きるために欠かせないもので、その食事は食材を手に入れて、料理を作る工程が必ずあります。

 できたものを買っていたとしても、その料理を作っている誰かが存在するのです

 この本の登場人物たちが作り、食べている料理は、ほんのちょっと背伸びした料理

 ラムステーキ、生地から作るピザやうどん、ミートボールシチュウ、松茸ごはん、ちらし寿司など。

 読んでいると、そんなに手間がかかるのか……とハードルの高さを感じてしまいます。

 それと同時に、これらの手間をかけて作ってくれるありがたさにも気づきます。

 登場人物たちは、飲食店の仕事をしている人たちではなく、ごく普通の人たち

 この人たちが作れるなら、わたしにもできるかも。

 もしそう思ったら、本編のあとにすべての料理のレシピがついています。

 と、いうのが、このお話は料理教室を運営している会社の月刊誌で連載されていたお話だから。

 このお話を思い出しながら料理を作って食べれば、よりこのお話が楽しめるかもしれません。

 

2 リレー形式で主人公が変わるのが面白い!

 

 1回目のごはんの主人公は、立花 協子
 
 彼と別れてはじめての週末、協子は自分のためにラムステーキを作ることにしました。

 今までは彼に向けて作っていて、彼に「うまい!」と言われた。
 「きみって天才かも」と褒めてくれた。

 協子はそんなことを思い出しながらひとりで食べ進めます。

 次も協子のお話なのかな? と思いきや、2回目のごはんの主人公は、協子の同僚の榎本 景
 協子のお話の中でさらっと出ていました。

 3回目の主人公もそう。
 景のお話の中に出てきた人物が主人公です。

 読んでいくとその繋がりに、思わず嬉しくなる瞬間があります。

 登場人物たちはそれぞれの事情を抱え、食事を作ります。

 ただ、お腹が空くから作るのではなくて、明確な理由があって、その料理を作る。

 それだけでその食事の味は変わるような気がします。

 解説で、井上荒野先生がおっしゃっていましたが、

 食欲が心に影響されるということと、心がどんなに痛めつけられていても、生きるためには食べなければならないということ。  

 と。
 そう、食欲がどんなになくても、何かを口にしなければならない時が、生きていればあるのです。

 それと同時に、角田先生がおっしゃっておられましたが、

 今日の夜何を作ろうか、とぼんやり考えることは、ときに煩雑だけれど、ときにこれ以上ないほどの幸福でもある。  

 と。
 食べるものが選べる状態、というのは、食べ物が十分にある環境ということであり、それが手にできる手段があるということであり、その料理を美味しく食べられる心身状態であるということ。

 それは、とても幸福なことだと思いませんか?

 

3 「あとがきにかえて」と「解説」は最後まで読んでほしい

 

 「あとがきにかえて」では、角田先生が料理をはじめたきっかけや、お母さまとの関係について書かれてあるのですが、これを読むと、だからこのお話が書けただなぁ、とどこか納得させられます。

 角田先生のお母さまはとても料理上手な人で、忙しくても「料理の素」を使わず料理されていたのだとか。

 そのため、角田先生は大人になるまで料理をすることがなく、ひとり暮らしをし、ピンチを感じてようやく料理をしはじめたそうです。

 その後、時に疎ましいとさえ感じていたお母さまと、料理を通じて連絡をとり、一緒に外出をしていました。

 色々な料理を教わり、唯一作ることを放棄してしまったのが、おせち料理

 角田先生はお母さまが亡くなったあと、母のおせち料理はもう食べられない、ということに気付いて、「さみしい」と、はじめて亡くなったことを本当に理解したのでした。

 それを読んで思い出したのが、お雑煮
 わたしも、母にお雑煮の作り方を教わっておかなくちゃな、と。
 そして年に1度しか食べられないその味を、忘れたくないなぁ、と思ったのでした。

 

まとめ

 

 余談ですがこのお話を読んだ日に作った夜ごはんは、家族にとても好評でした。
 こころがこもっていたからかな?
 手早く作ることはまだ難しいけれど……そのうち。

 食べてくれる人がいる、というのもありがたいな、と思いました。

 そんな料理を作ることの大切さを教えてくれる『彼女のこんだて帖』、ぜひ読んでみてください。

 


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 このリレー方式が面白いなと思ったので、わたしも『読書リレー』をしてみます。

 今回は角田先生『彼女のこんだて帖』という本を読んだので、次は、

同じ著者の本
②解説の井上荒野先生の本
ごはんが出てくるお話
④話の中で出てきた、向田邦子さんのエッセイ

 のどれかを読もうと思います。
 お楽しみに~。

 

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